俺のサポパが帰ってこない 試し読み
こんにちは、ゆいせるです。またの名を木原 ゆいと申しますー。
さてさてここへアクセスしてくださり、ありがとうございます!
C89での俺サポep1-1、C90での俺サポep1-2、そして新作ep1-3の文章を盛り込んで、ついにすべてをまとめた文庫本が完成しました! このページはその試し読みページです。
よろしくお願い致しまーす
「こんな時期に転校生か。よろしくな!」
自己紹介の場を設けてもらったホームルームが終わり、最初の休み時間が来た時。
声の方へ顔を上げると、わたしと同じ金髪の男の子が立っていた。
「俺はアフィン。このクラスの生徒会長を任されてる。なんかあったら気楽に、なんでも聞いてくれよな、友達になろうぜっ」
はじめてお友達ができた!
そんな思いも束の間、その声を皮切りにクラス中の視線がこちらを向く。
アフィンにありがとうを返す前に、人集りができてしまった。
「俺はゼノ、んでこっちはエコーだ」
「私たち隣の席ね、仲良くしましょう、よろしくっ」
赤い髪と顔の傷が特徴の男の子がゼノ、エコーは大きなニューマンの耳にアップにした髪型が特徴の女の子……。顔と名前、早く覚えなくちゃ!
「まだ教科書買ってないでしょ? 揃うまで見せてあげるから」
時々どうしてこんな生活をしているか忘れそうになる。
あの日わたしは、惑星航行船団『オラクル』のはじっこで生まれた、ひとりのサポートパートナーだったはずだから。
☆
外宇宙へ進出し、種の存続を目的とした調査隊の構成員――アークス。
そのアークスの任務に同行したり手伝ったりするためのロボット、それが『サポートパートナー』として生まれたわたしの本来の姿。
周囲に感じるのは、才能を持った人だけが使える光のエネルギー『フォトン』。
自分が存在していることに気づいた時から、頭の中はフォトンの使い方と、戦うための情報と、人間という生物の情報だけがインプットされていた。
『んー決めた、お前の名前はヒナだ。あとは外見をクリエイトして……』
天からその声が降ってきたと感じた瞬間目の前が明るくなった。
視界はぼやけていて、誰がわたしを見つめているかはわからなかった。男の人の声がする。この人が、わたしがお仕えすることになるアークスか?
どこなのかわからない場所にわたしは立っていた。青い壁にはいろいろなグラフがあって、数値は止まることなく動き続けている。
『変更を確定っと。よっしゃ!』
その瞬間、強く風が吹いた。すると今度は自分が飛んでいるかのように体が浮かんでいた。前方の光のさす場所へ近づいていく。どんどん、スピードを増して、やがて視界は真っ白に包まれた。
自分の目ではっきりと世界が見えたとき、初めて鏡でわたしは自分を確認した。
ちょっと白すぎるんじゃないかなと思う肌に、金色のサラサラの髪の毛。その白さのせいか赤い虹彩の色に視線を吸い込まれた。肌と同じく薄い色をした唇をぱくぱくさせてみる。結構歯並び良いんじゃないかな? 前髪をかき分けると出てくる小さな角はデューマンという種族なら必ずあるものらしい。まだ生えてきたばかりなのか、とてもちっちゃい!
いろんな角度から自分の顔や、見える手足を眺めていると、エステ店員のお姉さんに名前を呼ばれた。
「あなたのマスターがここで待っているそうよ。気をつけていってらっしゃい」
データを受けとった。これからわたしのマスターになる人の名前が書いてある。どんな人だろう。おっとりしたわたしを、相手にしてくれるだろうか。
いろんな思いを頭に巡らせている間、お姉さんは黙ってわたしを見ていた。
「ありがとうございました」
「またいつでも、よろしくね」
わたしは今日、サポートパートナーとしてここに誕生した。
地図を頼りに殺風景な廊下を進み、表札を見つけた。ここだ、間違いない。ここがマスターのおうち。うえぇ緊張する。どんな人だろう? 優しく迎えてくれるだろうか。寒くないのにおなかの底から震えているような気がした。
合鍵はまだ持っていないので入れない。ここでマスターの帰りを――
「あんたが今日から俺のサポートパートナーになるヒナちゃんでいいんだよな?」
廊下の奥から現れたのは、琥珀色の瞳をもつ男の人だった。燃えるように赤い髪の毛に、同じように赤いヘッドフォンをしている。
「わたしの瞳と同じ赤色の髪、わたしの髪と同じ金色の瞳だ……」
ヘッドフォンをゆっくり耳からはずして首にかけると、
「ああ、その通りだ。よろしくな」
軽く頭をさげて、笑いかけてくれた。片耳にだけつけた三連のピアスが揺れる。
「え、あ、はい、今日から配属されました、ヒナです。マスターのためにがんばります」
ぽふっとわたしの頭を撫でて、わたしよりも先に部屋へと入っていった。腰には大きくごついアサルトライフルがひっかかっていて、ポケットからは黒いバンダナがはみ出ていた。
ちょっとしっぽみたいでかわいいかも。
マスターのお部屋は、ギターやベースが飾ってある不思議な部屋だった。通信端末と、マスターの寝るベッド、かっこいいシルバーアクセサリーがいくつか投げてあるテーブル。
マスターは首から提げていたヘッドフォンをそのテーブルに置いて、ベッドへ腰かけた。
「おまえの布団とか用意しないとな。汚い部屋ですまんなあ」
わたしの住む準備をしていると、気付けば時計はそろそろ夕方を表示していた。
「このあとハルコタンへ行かなくてはならなくてなあ、ただの物資の調達だからすぐに終わるんだけどな。んで、早速だけどヒナちゃんにナベリウスヘおつかいを頼もうと思ってんだ。フランカさんにお願いして、お前の歓迎会しようぜ」
はじめてのおつかい! メモをしていると、マスターからお古の長銃を貸してもらえた。
「かしこまりました。それでは、これからはこのクラスで。よろしくお願いします」
マスターはさっき頼んだわたし用の家具が届くのを待ってから出発されるらしい。
手を振ってくれたマスターに軽く頭を下げて、わたしは歓迎会の材料探しに出発した。
惑星ナベリウス。文明は無く、緑豊かな惑星だと頭の中の情報をたどる。その情報通り、すれ違うのは動物ばかり、人工の物のない場所だった。
マスターの行っている惑星ハルコタンは瓦屋根の大きな家が並んでいて、桜の花がずっと咲いている場所なんだとか。ほかにも惑星アムドゥスキアは火山活動が活発で、空にはたくさんの岩が浮いてるとか。情報だけではなく、自分の目でぜひ見てみたい。
ところで、材料確保のためにずいぶん森の深くまで足を進めてしまった。
遠くで大きな何かの雄叫びが聞こえる。
気付けば西日がわたしの後ろに長い影を作っていた。
背丈の長い草から何か出てきそう。ごつごつした岩のトンネルの向こう側は見通しが悪く不気味だし……。
『もしもしヒナ、任務が今終わったから、これからそっちへ向かうから』
少し心細かったわたしへ、マスターは連絡をくれた。
鞄を確認すると、予定のものまではまだ物資が足りない。
「わかりました、マスター」
通信を着ると同時に、前方から音がした。
遠くの曲がり角から姿を現したのは、オオカミ型のエネミー――ガルフだった。
でも、わたしの頭の中にインプットされている情報とは異なる。どこか、苦しそう?
その勘はすぐに当たった。
ガルフがその場に座った時、背中に大きく邪悪な蕾が根をはっていたことを確認した。
それは、全宇宙の敵、闇の勢力『ダーカー』に侵食されているサイン。
あの侵食核へ攻撃してダーカーの根を破壊できるのは、フォトンを操れるアークスだけ。
自分の頭の中にあるサポパの知識を再確認して、武器へフォトンを籠めた。
その時。
大きな雄叫びが空気を震わせた。
ガルフもわたしも耳を押さえてうずくまる。
「なんの、声……?」
その正体は、ガルフの来た方向にゆっくりと姿を現した。黒い毛並みに走る金色の鬣を風に靡かせて、一歩一歩が重たいそいつは、
「バンサ、ドンナ――」
森林に住む巨大な原生種・ファングバンシーのレア種だった。ガルフの中のダーカーの気配を感じて追いかけてきたんだろうか。
そんな分析中、PAを籠めた銃は止まらない。意に反してグレネードシェルはバンサ・ドンナ一直線に飛び出していた。
バンサ・ドンナの肩で爆発した弾丸は、わたしのヘイトを見事に稼ぐ。
「に、逃げなきゃ、っ」
ガルフの子犬のような声とわたしの悲鳴が、再び雄叫びにかき消された。
「だれか助けて!」
おいかけっこがはじまった。わたしがジャンプするのもやっとな段差を、奴は軽々越えてくる。分かれ道でガルフと違う方向に逃げ込んだのに、わたしだけを見つめて迫ってきた。
茂みにダイブして、飛び掛かってくるのを回避したのも束の間、再びこちらを睨んでくる。もう一度、壁に着地して更にもう一度、わたしに向かって右手を降り下ろした。
避けるのが精一杯で、ただひたすら隙を見つけては森の入り口を目指すしかなかった。心臓が張り裂けそう。もう足が持たない。
小さなジャンプでわたしを潰しにかかってくる。もうだめだ、逃げられない!
そのとき、迫る右手に赤い光が貼り付いた。
わたしはそのマークを見たことがある。ライフルだけが打てるそれは、
「ウィークバレット……っ」
「俺のサポパになにしてんだッ!」
わたしの真横を猛スピードでスライディングしてきたのは、防御力低下の特殊弾とマスターだった。最後の一蹴りが右足の爪を破壊する。そして脆弱化弾は左足へ貼り付き、超至近距離からの一斉射撃で爪を一気に砕いた。
マスターに腕を引っ張られて、でも、もう腰が抜けてしまってうまく動けない。
「伏せろ!」
マスターの読み通り、再び飛びかかる攻撃をしてきた。真上を通過し、前足の爪が無いためにバランスを崩して着地する。
マスターはその怯んだ隙を見てウィークバレットを装填、後ろ足を容赦なく破壊した。
四発目のウィークバレットが壊れていない最後の足に貼り付いたときだった。
びりびりと体の奥にまで響いてくる咆哮が、マスターと離れ離れの方向へと吹き飛ばす。
思い切り体は岩へぶつかった。幸い、その壁からバウンドした先には丈の長い草が生い茂っていて、クッションになってくれたが、頭からぶつかったらしい。ガンガンする。気持ち悪さがこみあげてきて、瞼を開くことも困難だった。
転がって、草の生えていないところまで体を引きずる。
そこには転送装置――テレパイプがあった。ワープ先は『????』と書いてある。虹色に輝くテレパイプ。マスターが繋げてくれたものなのだろうか? はじめて見たものだ。……そりゃそうか、わたしは今朝作られたばかりの、戦うデータが入ったモノ。HPが赤いゾーンに入っているからよく見えないだけかもしれないけれど、ただアークスに従うロボットなんだ。
回復を求める音が体から響く中、遠くでマスターの声がしたのを拾った。言葉の意味を理解することができないほどに頭はグラついていた。
「ロボットだけど、生きたい」
そう喉から声が漏れたと同時に、わたしの方へ向かってくるバンサ・ドンナを捉えた。もうあれを受けたらわたしは瀕死の状態になるだろう。
どこにいくかわからないし、マスターのもとを勝手に離れてしまう。けれど、わたしはそのテレパイプに身を委ねるしかできなかった。
最後に見たマスターは、大技――サテライトカノンを発動させようと地面に構える、格好いい姿だった。
見知らぬ虹色のテレパイプ。
その先に広がっていたのは……彼女の全く知らない場所だった。
しかも現地の学生として暮らすことに!
テレパイプを置いた張本人を突き止めたと思ったら、誘拐されちゃった!?
彼女はマスターの元へ帰れるのか。
この続きはぜひ、イベントで実際に見本誌をお手に取っていただけたらと思います。
読んでいただき、ありがとうございました!
あなたのサポパも、本作の主人公・ヒナのような大冒険をしているかも?